株価の決定要因の中で業績の重要性は群を抜いています。つまり、銘柄選択するには業績のチェックが不可欠で、そのためには決算書を読むことが求められます。
ところが、個人投資家の中には決算書と聞いただけでも頭が痛くなる人もいる様ですが、読み方に慣れてしまえばそれ程、難しいものではありません。そこで、本項では決算の仕組みを簡潔に説明し、株式投資に最低限必要な決算書の読み方についてお話します。
決算の仕組みを理解する
損益計算書
現在、上場企業は3ヶ月に一度の四半期決算が義務付けられています。従って、損益計算書とは3ヶ月毎の「売上」から「コスト」を差し引いて「儲け」を導くもので、損益計算書には5つの利益が並んでいます。
売上総利益
1つ目は「売上総利益」or「粗利益」で、「売上高」-「売上原価」=「売上総利益」or「粗利益」となります。
例えば、コーヒーショップを運営する会社の場合は売上からコーヒー豆の原価を指し引いた金額が「売上総利益」or「粗利益」となります。
営業利益
2つ目は「営業利益」で、「売上総利益」-「販売費及び一般管理費」=「営業利益」で求められます。
「販売費及び一般管理費」は人件費や家賃・広告宣伝費など諸々のコストを意味します。
つまり、「売上総利益」から人件費や家賃など諸々のコストを差し引いた「営業利益」が黒字であれば、その企業の本業が儲かっていることを意味します。そのため、銘柄選択に於いては「営業利益」の推移が株価の先行きを予測する1つの指標になる訳です。
経常利益
3つ目は「経常利益」で、「営業利益」±「営業外損益」=「経常利益」で求められます。
ここで言う「営業外損益」とは営業活動以外の財務活動などで発生した収益や費用のことで、具体的には受取利息や有価証券の売却益などを営業外収益・支払利息などを営業外費用として扱います。
税引き前当期純利益
4つ目は「税引き前当期純利益」で、「経常利益」±「特別損益」=「税引き前当期純利益」で求められます。
ここで言う「特別損益」とは営業及び財務活動による通常では起こり得ない損益を意味し、台風や地震などの自然災害による損害や子会社の倒産による損害等が含まれます。また、長期保有の不動産や有価証券の損益も「特別損益」に含まれます。
当期純利益
5つ目は「当期純利益」で、「税引き前当期純利益」-「税充当額」=「当期純利益」で求められます。
これらの5つの利益の額を順に追って行けば企業の大まかな決算内容が見えてきますが、特に重要なのは営業利益と経常利益です。
営業利益は「売上総利益」から「販売費及び一般管理費」を差し引いた金額ですから、企業が本業で得た売上総利益から本業を継続するための費用を差し引いた金額と言えます。
従って、銘柄選択に於いては企業が本業でどの位の儲けがあるかが最も重要ですから、営業利益の推移が重要となります。
また、最近の企業活動に於いては本業の利益以外にも受取利息・受取配当金・持分法による投資利益・有価証券売却益・不動産賃貸収入なども重要な要素です。
従って、「営業利益」±「営業外損益」で求められる「経常利益」の推移も重要な要素となります。
貸借対照表
貸借対照表はバランスシートとも呼ばれ損益計算書が3ヶ月間の企業活動の合計額を計算しているのに対して、貸借対照表は決算日における企業の財政状態を表します。
つまり、人間ドックのCT検査の様なイメージで決算日における企業の財政状態を輪切りにしたものと考えれば解り易いかもしれません。
要は企業がどのようにお金を工面したかを示す「負債」「純資産」と、そのお金をどう使ったかを示す「資産」に分けることにより内容を精査し易くしています。
つまり、「資産」=「負債」+「純資産」に示され、「負債」は借入金や社債などの他人資本を意味し「純資産」は資本金と利益剰余金などの自己資本を意味します。
従って、銘柄選択に於いては「負債」の増減と「純資産」の増減がポイントとなります。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書は企業の会計期間におけるキャッシュフローの増減を示す書類で、売掛金の回収が適正に行われているかを見る重要な計算書です。
企業活動に於いては常に売上金がリアルタイムで入金される訳ではありません。企業対企業の場合は手形がありますし、企業対個人の場合はクレジットカード決済も少なくありません。
例えば、損益計算書では利益が出ているように見えても、売掛金の回収が遅くなると資金不足に陥ることもあるからです。これらの企業の一会計期間のキャッシュ(現金や現金同等物)の増減を「営業キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」から見ることができます。
銘柄選択のための決算書の正しい読み方
売上が伸びているのか?
株式投資に於いては増収増益という言葉をよく耳にしますが、増収とは前期比で売上高が増えていることを意味し増益とは利益が増えていることを意味します。只、この場合の増益は営業利益・経常利益・当期純利益の何れを意味するかは曖昧になっていますが、いずれにしても売上が前期比プラスで何れかの利益が増えていることが株式投資の銘柄選択に於いては必要最低条件と言えます。
営業利益が伸びているのか?
銘柄選択をする場合に企業のどの部分を評価するかで選ぶ銘柄は異なります。例えば、本業のビジネスモデルを評価して銘柄選択する場合は、営業利益が前期比で増えているかが重要なポイントとなります。また、営業利益のトレンドが右肩上がりで増加していることが銘柄選択の重要な要素と言えます。
1株利益と配当は伸びているのか?
通常の企業の決算であれば売上が前期比プラスで営業利益も前期比で伸びていれば、経常利益・当期純利益も増益になる筈です。しかしながら、企業の決算に予断は許されません。
例えば、2017年1月に発覚した東芝の数千億円規模の損失は米国の子会社から生まれた損失です。従って、仮に売上や営業利益が増収増益でも当期純利益が減益となる場合も少なくありません。そのために、最終的に1株利益と配当が伸びているかを確認する必要があります。配当に関しては企業の配当政策で決められることですが、現在のトレンドは株主還元を重視する傾向が強まっており増益幅と同等の増配率が求められます。
会社側予測数字とQUICKコンセンサス予想数字の違い
証券会社は主要銘柄に担当のアナリストを配置してレーティングを行い、銘柄毎に目標株価を公表しています。そのため、担当のアナリストは企業訪問を繰り返し会社側予想とは別に各企業の業績を予測します。
その各証券会社のアナリスト予測を集計したものがQUICKコンセンサス予想数字です。
近年の企業側予想数字は減額修正を恐れて控えめな数字を発表する傾向が強まっています。
そのため、個人投資家の間ではQUICKコンセンサス予想数字が重視される傾向があり、特に、企業側予想数字とQUICKコンセンサス予想数字が異なる場合はQUICKコンセンサス予想数字に株価がサヤ寄せする傾向が強まっています。このQUICKコンセンサス予想数字は日経会社情報の業績欄に掲載されています。
銘柄選択への応用
増収増益企業
2016年3月期の東京証券取引所第1部に上場する全企業(金融除く)の本業のもうけにあたる営業利益の合計は8年ぶりに過去最高を更新しました。一方で、2017年3月期は年明け以降の円高進行などが影響し営業減益見通しで企業業績に減速感が出ていますが、高水準の数字を維持していることは間違いありません。
従って、現在、銘柄選択する場合は増収増益であることは外せない条件となっています。
つまり、増収増益企業の中からチャートやテクニカル指標を見て最適な企業を選択すれば、より良いパフォーマンスが期待できます。
最高益更新企業
更に、2016年3月期の決算に於いては4社に1社の割合で最高益更新企業が出ました。2017年1月末現在で上場企業数は東証1部の2,005社を初めとして全市場合計3,537社を数えます。
つまり、最高益更新企業は900社弱も出ている訳ですから、銘柄選択の条件に最高益更新偉業という項目を付けても不思議はありません。
只、最高益更新企業の中にも優劣があり増収増益で営業利益・経常利益・当期純利益の全ての項目で最高益を更新している企業があれば、一項目だけ最高益を更新している企業もあります。従って、最高益更新企業の中から更に最適な銘柄を選ぶことが求められます。